2025年5月。アメリカ・テキサス州ダラスのケイ・ベイリー・ハッチソン・コンベンションセンターには、世界60以上の国と地域から約2,400チームの若きエンジニアたちが集結しました。
VEX Robotics World Championship——世界最大級の教育用ロボット競技会のステージが、今年も熱気と歓声に包まれました。
この大会は、年齢やロボットの種類によって5つのカテゴリーに分かれています。小学生対象のVEX IQ エレメンタリー部門、中学生対象のVEX IQミドルスクール部門、同じく中学生対象のVEX V5ミドルスクール部門、高校生対象のVEX V5ハイスクール部門、そして大学生向けのVEX U部門。それぞれが5月6日から5月12日までの間に順に開催され、まさに“ロボティクスの祭典”と呼ぶにふさわしい壮大なスケールです。
私たちSanEi Roboticsが支援するDOHSCHOOLの高校生チーム「Big Dippers」は、日本代表としてVEX V5ハイスクール部門に出場。彼らの挑戦の軌跡を、ここにお届けします。

結成1年目とは思えない、強い意志と実績
Big Dippersは、男子高校生4名と女子中学生3名からなる7人チーム。結成からわずか1年という新しいチームですが、全員がVEX IQの競技経験者で、うち5人は2023年の世界大会にも出場しています。
2025年2月に東京の蔵前工科高校で開催された「VEX V5RC Japan Nationals」では、最優秀賞であるExcellence Awardを受賞し、世界大会出場権を獲得。直前に出場した台湾のシグネチャーイベントでも、ファイナルラウンド進出およびInspire Awardの受賞という快挙を果たしました。
7名のメンバーのほか、技術面のみならず精神面でもチームを支えたのが、メンターの中村勇之介君。彼は、中高生時代をアメリカで過ごし、カリフォルニア州でVEX IQ、V5、FRCで州チャンピオンを経験しました。2025年秋からはUCバークレー大学への進学も決定しています。その存在がチームにとってどれほど心強かったかは、言うまでもありません。

世界大会のステージで挑んだ「High Stakes」
今シーズンのVEX V5競技は「High Stakes(ハイステークス)」。
試合は2分間で構成され、冒頭15秒は自律動作(オートノマス)、残り1分45秒はドライバーによる操縦で競います。
フィールド上には多数の「リング(得点アイテム)」が配置され、これを拾って「ステーク(棒状ポール)」に掛けたり、所定の場所へリングの入ったステークを運んだりして得点を重ねます。試合終盤では、ロボットが中央の「ラダー」に登ることで大量得点を狙うことができ、戦略・自律制御・ドライビング技術の総合力が求められる高度なゲームです。



初日のトラブル、そして痛感した世界の壁
Big Dippersは「Technology Division」に所属し、予選全10試合に挑みました。
初日、ロボットがサイズ制限をわずかに超えていたため、まさかのインスペクション不合格。急ぎ修正し事なきを得ましたが、チーム内でも動揺が見え、影響は少なくありませんでした。
その後、初戦からまさかの4連敗。
オートノマスの精度やドライビング技術、ストラテジーなど、海外強豪チームとの差が明確に現れました。日本で繰り返し練習してきたはずの競技でも、フィールドの使い方、各種動作のスピード、アライアンスとの連携、予想外の事態への対応力、何度も繰り返し同じ挙動をすることができるロボットの精度など、”世界基準の完成度”に大きな差を感じさせられました。

メンターの言葉がチームを変えた
昼休み。メンターの勇之介君がメンバーと話をする時間をくださいと申し出てきたので、車座になりミーティングを行いました。
「ロボティクスが大好きで、ここまで来たんじゃないのか」
「勝ち負けだけがすべてじゃないはずだ」
「世界中から集まった、あれだけ素晴らしいロボットやプログラム、作戦、チームに出会えたこと自体をもっと楽しもうとしないんだ」
その言葉は、7人の心にしっかりと届いていました。
午後の試合からは、表情も声も明らかに変わり、チームの雰囲気が一変。後半6試合では3勝を挙げ、最終成績は3勝7敗。ディビジョン内で67位(全83チーム中)という結果でした。目標としていたディビジョンファイナル進出には届きませんでしたが、後半の巻き返しは、確かな成長と再起の証です。


世界との出会い、自分との出会い
大会期間中、彼らが宿泊していたホテルでは、憧れの強豪チーム「TenTon Robotics」や「Echo」とも遭遇。レストランで声をかけ、記念写真を撮るなど、貴重な時間を過ごしました。
また、スイス代表やアメリカ代表として出場していた日本人学生との交流もあり、国や文化を越えて「VEX」という共通言語でつながる喜びを実感する場面もありました。




一人ひとりの言葉に表れた、未来への兆し
大会後、メンバーの口からは、こんな言葉が聞かれました。
- 「英語に自信がなかったけど、エキサイトしているテンションの勢いで海外チームとのコミュニケーションを試みてみたら、思った以上にコミュニケーションが取れて、すごく楽しかった。」
- 「自分の役割だけでなく、チーム全体にとって何が必要かを考えて動くようになった。」
- 「ゲームやアプリ制作が好きでプログラムを始めたけど、ロボット制御が楽しくて仕方なく、今後の進学目標が明確になった。」
- 「こんなに成長できて楽しいVEXを、もっと日本に広めたいと思った。」
それぞれが、自分なりの“気づき”と“次の目標”を見つけて帰ってきました。それこそが、この世界大会で得た最大の成果だったのかもしれません。

STEM教育の未来を拓く場としてのVEX
VEXは、ただ技術を競うだけの競技ではありません。
設計・ビルド・プログラミングといったハードスキルに加え、チームワーク、戦略、タイムマネジメント、異文化理解、リーダーシップなど、未来を生きる力を実体験として学べる貴重な教育環境です。
Big Dippersの挑戦は、その真価をあらためて示してくれました。



感謝とともに、次のステージへ
この挑戦を支えてくださったスポンサーの皆様、保護者の皆様、チャリティイベントにご参加いただいた皆様、学校関係者の皆様、Big Dippersの活動を取り上げていただいたメディア関係者の皆様、世田谷区を本拠地として活動するチームを激励していただいた保坂世田谷区長、また現地で出会ったすべての仲間たちに、心より感謝申し上げます。
Big Dippersは今、新たな目標に向かってまた一歩を踏み出しています。
これからもBig Dippersの挑戦を応援よろしくお願いします!




※この記事は、SanEi Roboticsが支援するチームの世界大会出場を記録したものです。教育関係者、保護者、そしてロボット競技に関心を持つすべての方々に向けて執筆しました。掲載されている写真は、選手および保護者の同意のもと使用しています。